大分大学大学院医学系研究科 修士課程看護学専攻

1.修士課程看護学専攻について

どのような教育?

 修士課程看護学専攻では、社会や保健医療福祉の変化を見据え、看護の質向上を実現できる実践力を養い、看護実践・看護管理・看護教育の場でリーダーシップを発揮できる高度専門職業人の養成を目標に大学院教育をすすめています。
 本専攻は、「看護研究コース」と「専門看護師コース」の2つを設けています。大学院生は、どちらかのコースを選びます。看護研究コースは研究能力を身につけ、より質の高い実践・管理・教育につなげたいと思っている方、専門看護師コースは、専門看護師の資格を得たいと思っている方に向けて開講しています。

老年看護学分野 教員

院生の背景は?

 学士課程からストレートで入学する人、保健師・看護師・助産師として病院や行政機関等に勤務する人、教員として看護基礎教育機関に勤務する人等、さまざまな背景をもつ看護職が入学しています。
 看護経験や勤務先が異なるさまざまな背景をもつ院生が集まり、情報交換・意見交換を行いますので、自分の経験の枠を超えた新たな価値や関心が生まれるかもしれません。

仕事との両立はできる?

 本専攻では、仕事を続けながら学びたい人のために、夜間授業や長期履修制度を設けています。また、遠隔地や感染症等のため通学が難しい場合は、オンライン授業を行っています。

2.老年看護学に関心がある方へ

老年看護学に関心のある方は、いずれのコースも選択できます。

看護研究コース

 これまで、病院勤務の看護師(スタッフ、管理者)、認定看護師、学士課程卒業者、留学生等を受け入れました。

 進学動機は、「高齢者(家族を含む)をより深く理解したい」、「病院・施設・事業所・地域での高齢者・家族への看護実践の質改善をはかりたい、看護方法の開発に取り組みたい」、「高齢者看護に強いチームづくりに向けた看護管理を展開したい」等、さまざまです。

 看護研究コースでは、看護の質改善に必要な研究能力を身に着け、「研究成果を実践に活かす」「実践を研究につなげる」といった研究と実践の行き来ができる人材を育成します。そのため、自分が経験した高齢者・家族の看護実践を言葉にし、意味付けし、それを他者に伝え、意見交換するという学修を繰り返します。看護現象を客観的にとらえ説明することが修了までの目標になります。

 皆さん、仕事との両立をはかりながら、修士論文に取り組みました。

〔近年の修士論文テーマ〕

  • 特別養護老人ホームに入所する認知症高齢者の足趾の爪ケアに至るまでの実践過程とその要点(2023年度)
  • 特定機能病院における認知症高齢者の入院初期の適応行動と看護の要点(2024年度)
  • 急性期病棟に勤務する看護師の老年観に関する調査研究(2025年度6月)


 大学院修了は、ゴールではなく、看護の質向上への新たなスタートをきるという意味をもちます。そのため、修了後も、学会発表や論文投稿の指導、研究計画の相談・指導を行います。
 また、修了生同士も、老年看護学ゼミや学会活動を通じて縦・横のつながりが続いています。

専門看護師コース

 2020(令和2)年度から、老人看護専門看護師の資格取得のためのコースを開設しました。

 老人看護専門看護師の登録数は、全国で285人(2024年12月時点)です。病院・施設や在宅看護事業所等に所属し、高齢者・家族に卓越した看護ケアの提供はもとより、多職種チームの調整、倫理課題に対する倫理調整、看護職者等からの相談、教育、研究に取り組んでいます。
 本コースからは、2024年度までに2名の老人看護専門看護師を輩出しました。

 本コースのカリキュラムは、「認知症老年看護」と「終末期老年看護」に特化したカリキュラムを設定しています。認知症高齢者とその家族へのケア、老衰・非がん疾患等で人生の最終段階にある高齢者とその家族へのケアについて、講義・討議、文献検討・事例検討、臨地での演習・実習をとおして学びます。

 老人看護専門看護師の資格は、大学院修了後、日本看護協会の認定審査を受け、合格することで得られます。したがって、本コース修了後も、資格取得にむけて指導を継続し行います。

3.進学に関する相談先・教員紹介

 進学を検討されている方、「こんな疑問があるけど、研究テーマになるだろうか?」と悩んでいる方は、お気軽にご相談ください。

教授三重野 英子e-mail:eikomi@oita-u.ac.jpTel:097-586-5093
教授正木 孝幸e-mail:masaki@oita-u.ac.jpTel:097-586-5071
准教授小野 光美e-mail:mitsumi@oita-u.ac.jpTel:097-586-5071

4.在学生の声

修士課程看護学専攻2年 老人看護専門看護師コース(2024年度入学)
 2024年4月に熊本県から単身赴任で老人看護専門看護師コースに入学しました。私は、集中治療病棟に従事した後に訪問看護に転職しました。それまで培ってきた救命優先の考えを持って看護実践を提供すると、高齢者看護では通用しない場面をいくつも経験しました。目の前のクライアントを理解し、寄り添った看護を提供したいと考え、大学院に進学しました。
 大学院での学修では、過去の事例を事実に基づいて振り返り、クライアントの本人理解や本人の立場で物事を捉える視点など、これまで不足していた老年看護の要となる重要思考を再確認しました。
 2年生の現在は、これまで学修した知識を基に臨地実習(老年看護実践実習)で、クライアントと向き合い、論理的思考やケアの言語化、意味づけを行うとともに、老人看護専門看護師として果たす役割や機能の修得に励んでいます。
 大学院生活は、他分野の仲間との出会いや地域で活躍する専門職とも交流ができ、新たな発見が多く、充実した日々を過ごしています。
修士課程看護学専攻1年 老人看護専門看護師コース(2025年度入学)
 私は、看護師免許を取得後、長年二次救急病院で働いていました。病棟看護を行う中で、地域連携に興味と感心が沸き、2020年から訪問看護ステーションとナーシングホームの看護師として働いています。看護職に従事する中で、「看護とは何か」「どんな看護が潜んでいるのか」言葉で伝えられない「もやもやした気持ち」が膨らみ続けていました。また、進学も学校生活との両立が不安でした。しかし、入学前に先生方へ相談できたことで進学の決意を固めることが出来ました。入学後、長年、行き詰まっていた思いが言葉として流れだす感覚を味わっています。
 大学院の学びは、自分を見直すことや正しく理解することの重要性を再認識し、これまでの経験値を「研究と探求」に向けて深めていけると思っています。目標高く持つ仲間に囲まれたことや先生方の高度教育実践下で私の「感覚」を興味深く説いていきたいと思います。始まったばかりの学校生活ですが、これからの学校生活も楽しみでなりません。
 進学をお考えの方へ 人生一度きり!看護を語り合う仲間を増やし、看護学を一緒に学びませんか?
修士課程看護学専攻1年 老人看護専門看護師コース(2025年度入学)
 私は急性期病院で認知症看護認定看護師として勤務しています。外来看護や認知症ケアチームの一員として、多くの高齢者、認知症患者さんと関わります。その中で自分自身やチームのケアの質の向上を目指していますが、看護実践を振り返ることや自分の疑問を看護研究につなげることができていませんでした。今回、大学院に進学する機会を得られたことは、自分自身にとって看護実践を振り返ることや看護研究を通して看護の質を向上させるためのよいチャンスだと思っています。まだ、始まったばかりで仕事をしながらの就学ですが、
 先生方からご教授いただき、いろいろな背景のある他の院生と情報交換を行い、ともに学ぶことはとても良い刺激になっています。3年間の予定ですが、貴重な時間を大切に過ごしていきたいと思います。
修士課程看護学専攻1年 看護研究コース(2025年度入学)
 私が専門看護師を目指した理由は、臨床での認知症高齢者看護への倫理的ジレンマがきっかけでした。大学院で学習を始めたばかりですが、新しい学びを得られることへの楽しさと自己の考えや看護を見直す良い機会になっています。大分大学大学院は、長期履修制度が利用でき仕事と学業との両立に協力的であり学びやすい環境です。

5.修了生の声

川嶌整形外科病院 副師長(2025年度6月修了)
 私は、病院勤務をしていた時に縁あって、看護学校の専任教員を経験しました。その後、再び臨床に戻り、教育担当になりましたが、以前から関心を寄せていた高齢者の看護について探究したいと思い、大学院に進学することを決めました。
 研究を開始してから修士論文にまとめる過程において、自分自身と深く向き合うこともあり、時に辛く苦しい時もありました。それでも研究を進めながら少しずつ学んだことを、職場の教育に活かすことが出来た時、研究を学ぶ意義を実感しました。また、研究で得られた新たな発見や成果から、挑戦的な研究ができたことに喜びを感じ、指導をいただいた先生方に感謝しています。そして、苦楽を共にした仲間たちが励まし続けてくれたからこそ、仕事と大学院の両立を成し遂げることができました。
 大学院修了は、スタートでもあります。研究成果を、職場の看護職を支える現任教育に活かし、高齢者ケアの質向上に努めたいと思います。
大分大学医学部附属病院 副看護師長(2024年度修了)
 大学院では、認知症看護認定看護師としての実践を、根拠に基づいて言葉にし、他者に伝えることの難しさに向き合いました。その中で、感覚的に行っていたケアを理論的に捉え直し、根拠に基づいた実践の重要性を実感しました。研究を通じて、エビデンスに基づく看護の意義を再認識し、臨床での経験を学術的な視点から振り返る貴重な機会を得ました。理論と実践を結びつけることで、より深い理解と新たな視点を得ることができました。大学院で出会った修了生とのつながりは、心強い支えとなり、大切な存在です。仕事と学業の両立は決して容易ではありませんでしたが、先生方や職場の方々の配慮や支援のおかげで、その過程を乗り越えることができ、達成感と成長を感じています。
 今後は、大学院で得た知見を活かし、認知症の人とその家族を支える看護の質をさらに高め、日々の実践に還元していきたいと考えています。
湯のまち訪問看護ステーション 訪問看護師(2023年度修了)
 私は、10年以上訪問看護ステーションに勤務していたました。その中で、超高齢者の事例をとおして勉強したいという気持ちがわきあがり、「老人看護専門看護師コース」を選択しました。大学院では、改めて地域をみていくことや高齢者の置かれている現状を俯瞰してみることができました。また研究をとおして今まで無意識に行っていたケア一つ一つに意味性について深く考えることができました。
また、地域の方をはじめ大学の先生方、大学院生との出会いなど人脈も広がった貴重な2年間であったと思います。

6.ゼミナール

毎月第4水曜日(18:00~19:30)を基本として、老年看護学ゼミを行っています。ゼミには、老年看護学教員、大学院生が参加し、大学院生の研究の着眼や進捗について発表・意見交換を行います。老年看護学の関心のある他領域の教員や看護職の参加も可能です。

7.修了生の研究テーマ

年 度修士論文テーマ
2025
(6月)
急性期病棟に勤務する看護師の老年観に関する調査研究
2024
(R6)
特定機能病院における認知症高齢者の入院初期の適応行動と看護の要点
2023
(R5)
特別養護老人ホームに入所する認知症高齢者の足趾の爪ケアに至るまでの実践過程とその要点(2023年度)
2022
(R4)
夜間休日に問い合わせのある高齢者の電話相談内容からみたニーズ
脳卒中後失語症者の生活の再構築の体験
2021
R3
一般病院における非がん疾患<心不全>後期高齢者のへの緩和ケア-コンフォート理論を基盤にしたアセスメントの視点の活用-
口腔がん術後摂食嚥下障害高齢者の生活の再構築における退院後の経験
2019
R1
急性期病棟の老年看護における倫理的感受性を育む取り組み ~倫理カンファレンスの継続実施による看護師スタッフの対話の変化~
2016
H28
尿路変向手術を受けた高齢患者の退院後一ヶ月間の生活体験
2015
H27
介護施設に長期入所する高齢者の糖尿病とともに生きる人生~病みの軌跡モデルを用いた検討~
2013
H25
若年性認知症者と暮らす配偶者が異変に気づき診断告知を受ける中での介護経験
2012
H24
脊椎疾患を有する高齢患者の再転倒予防看護の検討~転倒体験から導く看護実践の意義~
2011
H23
救命救急センターにおける認知症高齢者のBPSDの緩和に向けた入院時アセスメントの視点
2009
H21
気管切開患者の摂食・嚥下障害看護プログラム開発に向けた事例研究~摂食・嚥下障害看護認定看護師の看護の実際~
臨地実習における実習指導者の役割遂行に関する現状と課題
高齢オストメイトが抱える将来への不安とその影響要因
一般病院における認知症高齢者の睡眠・覚醒リズム障害の看護プログラムの検討
2008
H20
回復期リハビリテーション病棟における脳卒中患者の落ち込み現象への看護介入プロセス
2006
H18
認知症高齢者グループホームにおける健康管理の実際と課題
2005
H17
在宅後期高齢者の足指・爪のケアによる生活機能の変化
2003
H15
介護老人福祉施設の看護師が行うEnd-of-Life Careの実際
独居高齢糖尿病患者のインスリン治療におけるコンプライアンスの実態に関する研究
2002
H14
在宅後期高齢者の介護予防を目的とするフットケアに関する基礎的研究
2001
H13
痴呆性高齢者の歩行に関与する家族介護者の経験に関する研究
長期人工呼吸器装着中の在宅ALS患者の生活世界
中国石家荘市の壮年期住民がもつ高齢者に対する介護意識
2000
H12
グループホームにおける痴呆性高齢者の情報収集に関する研究 ―入居適応に焦点をあててー
介護過程における主介護者の思いの変化に関する研究―肯定的な思いに焦点をあてて―
介護老人保健施設における入所者の被服行動に関する看護アセスメントの視点
摂食困難にある痴呆性高齢者の摂食状況に関する研究―ビデオ観察を用いた分析の試み―
1999
H11
老年者の色覚特性に関する実験研究
老人保健施設入所者に対し介護介入として生活史聴取を用いた効果に関する研究

8.修了生の進路

◆1999(平成11)年度~2025(令和7)年度6月 修了生総数:33名
◆修了後、博士課程に進学し修了した者:4名

活躍の場終了時点
教育大学教員、高等学校教員等14名
臨床・地域病院の看護師、行政の看護師等19名
その他進学等0名
33名