生涯発達看護学領域

 生涯発達看護学領域では、母性看護学・小児看護学・老年看護学をつなぐ「生涯発達理論」を基盤に、人が生まれて成長し年を重ね、老いて死を迎えるまでの発達過程に応じた看護に関する教育や研究に取り組みます。

 教育面では、胎児期、新生児期、乳幼児期、学童期、青年期、成人期、老年期と、生涯にわたって成長・発達を続ける人とその家族を深く理解し、一人ひとりに合わせた看護を実践するための知識と技術を修得できるよう教育活動を行っています。

 研究面では、母性看護学、小児看護学、老年看護学の各専門分野の研究活動は勿論、今後、分野横断により、共生社会の実現やセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)、食生活・栄養支援に関する社会的な健康課題の実装研究に取り組みたいと考えています。

【生涯発達理論と3つの看護学分野の関係】

 生涯発達理論は、「人間の発達は、人が生まれてから亡くなるまで一生を通じて続くもの」という考え方です。私たちは、生涯にわたる人の成長・発達を多面的で柔軟なプロセスとして捉えます。

 生涯発達看護学領域は、母性看護学、小児看護学、老年看護学の学問分野が融合した領域です。生涯発達理論をベースにした各専門分野の概要を以下に記します。

母性看護学
生命が宿り、生まれ、成長発達し老年期に至るライフサイクル全般を通じて、女性とその家族の人生全体に寄り添いながら、身体的・精神的・社会的健康を包括的に支える看護を探究します。

小児看護学
あらゆる健康レベルにある子どもとその家族を対象とします。その子どもの将来を見据え、小児期の発達段階ごとに異なる特徴や課題に応じた看護を探究するとともに、子とともに成長する家族の支援のあり方を検討します。

老年看護学
老年期にある人を“その人固有の歴史(人生)を携え、いまをこれからを生きる全体的存在”としてとらえます。幸せな老いとは何か、幸せな老いを支えるとはどういうことなのかを探究します。

教 育

1.分野横断型の教育活動

 母性看護学、小児看護学、老年看護学の教員が協働し、分野横断型の教育活動に挑戦し始めました。

  1. 包括的セクシュアリティ教育に関する講義・演習
     全世代の課題であるセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツについて、2025年度の母性看護方法論Ⅱ(3年次前学期)の授業科目において、包括的セクシュアリティ教育に関する講義・演習を組み込み、小児看護学と老年看護学の教員が指導に加わりました。
     従来の小児看護学では、小児看護学概論で「男らしさ」「女の子らしさ」といった固定的な性別のイメージ(ジェンダー観)の影響を受ける子どもたちが、自分を大切にし、他者のいのちや尊厳を尊重できることを支援するために、必要な知識と理解を深める教育を行っています。また、老年看護学では、老年看護学概論(2年次前学期)で高齢者のセクシュアリティについて講義を行っています。3つの分野で教育を行うことにより、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツは生涯にわたる課題であることを学生とともにあらためて認識する機会となっています。
  2. 周産期や新生児の看護技術に関する技術演習
     母性看護学と小児看護学の教員が連携し、新生児の身体計測や沐浴、母体の計測、妊婦体験など、母と子を一体として捉えた演習を行っています。この分野横断による技術演習を通して、学生は母親と子どもそれぞれの存在を理解し、看護の視点からその関係を考える学びの機会となっています。
  3. 共生社会の実現に関する臨地実習
     看護学総合実習(4年次前学期)において、子どもと高齢者がともに過ごす共生型の事業所において実習を行っています。これまでは老年看護学の教員が指導を行っていましたが、令和7年度からは、母性看護学と小児看護学の教員も指導に加わります。そのため、子どもの成長発達からみた高齢者との交流の意義を学ぶ機会が得られます。
  4. 看護研究の指導
     2025年度より、学生の看護研究指導は、「生涯発達」の観点から研究に取り組める指導体制に移行します。従来は、一人の学生に一教員が指導を行っていましたが、今後は、3つの分野の教員が協力し、学生の研究テーマに応じて、一人の学生に主担当と副担当の教員がつきます。これにより、より広い視野で研究を進めることが可能になります。

2.各専門分野の教育内容

研 究

 これまで教員は、母性看護学、小児看護学、老年看護学の専門分野ごとに研究を行っていました。今後は、従来どおり各専門分野の学術や実践の発展をめざす研究をすすめつつも、「生涯発達看護学領域」として、3分野が融合した研究プロジェクトの立ち上げも検討しています。現在の社会的関心も高いテーマである「共生社会の実現」や「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」「食生活・栄養支援」といった課題に焦点をあて、学際的かつ実装的な研究を進めていきたいと考えています。

現在の主な研究内容
母性看護学・アウトリーチ型産後ケア事業における助産師の生活に根差した支援の探求
・大分県内の市町村における産後ケア事業の特徴と課題
小児看護学・分析モデルを用いた看護過程の教育効果-ストレスコーピング理論に基づくアセスメントツールを用いて-
・慢性疾患をもつ子どもの母親が行う“意図的な甘やかし”
・AYA世代重症心身障害児・者の家族が抱く養育における介護負担への支援策の検討
老年看護学・一般病院における非がん後期高齢者の緩和ケアプログラムの開発
・認知症専門外来における看護実践モデルの開発研究
・一般外来に勤務する看護職員の認知症対応力向上にむけた教育プログラムの開発
・肥満外科治療における代謝異常関連脂肪肝の改善メカニズムの解明
・経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)選択時のACP実践に必要な構成要素の同定
・オーラルフレイル⁻ゼロ次予防における日常の発声の意義